Magazine7 新語・流行語大賞2021
目次
ワクチン打った?
新型コロナウイルスのワクチン接種がイギリスで2020年12月8日に始まった。最初に接種したのはマーガレット・キーナンさん(90歳)。
ここから遅れること2カ月の2月17日に日本でも医療従事者を対象にした接種が開始され、2カ月後の4月12日には高齢者向けが始まった。
ワクチン狂騒曲の始まりだ。
ようやく接種券が送られてきたと思い安心したのもつかの間、予約がとれない事態が発生した。
予約の電話番号にかけても繋がらないし、インターネット予約といってもすぐに埋まるわ、そもそも高齢者向けにネッがデフォルトというのは不親切の極み。直接会場に出向いたり役所に押しかけたりなどの騒動もあった。
子に手伝ってもらったり、繋がらない電話の料金が数千円にかさんだりなどでなんとか困難を乗り越え、高齢者の方々はワクチン接種を完了した。この時期、人々があいさつ代わりに交わしたことばが「ワクチン打った?」だ。
このことばには、感染リスクが減った安心感と、予約が大変だったこと、副反応が結構重かったことなどを慰労し合う気持ちの交じり合った達成感が込められていたのだ。
「国民の命と健康を守る」
菅首相は2021年5月の国会で、コロナ禍の国民への説明と東京オリンピック・パラリンピック開催の認識を野党に問われるたびに、「国民の命と健康を守っていく」の答弁を繰り返した。
誰のどの質問にたいしても、録音連続再生のように同じフレーズを繰り返しその数17回とも報じられた。
パターン2として「安心・安全な大会」も用いられた。
フレーズ繰り返しは、証人喚問の「記憶にございません」「訴追の恐れがあるため答弁を差し控える」と受ける印象は同じで、国民に考えを表明したり説得したりすることから逃げ、首相という職を放棄したと見える。
今年は、オリパラメダリストたちの勝利のコメントが地味だった。
首相がことばをつくすことなくなし崩し的に東京オリパラを開催したことが影響し、心からの自由なことばが封殺されてしまったといえる。
ゴン攻め
東京オリパラ新種目スケートボードの解説でプロスケートボーダーの瀬尻稜(せじりりょう)選手が使ったことば。
緊急事態宣言下の重苦しい雰囲気のなかで開幕した東京2020。コロナ禍なんのそのと若者が元気はつらつ活躍したのがスケボーだ。
男女合わせて5つのメダルを獲得した躍動感を表現したこのことばが今年唯一、窮屈な日常を明るいムードにしてくれた。
今までサッカーだけやってきてこんなに悔しいことってない
男子サッカーの久保建英選手が、3位決定戦でメキシコに3対1で敗れた時のコメント。
久保選手は、試合終了後にピッチ上に座り込んで大泣きした。あまりのがっかりぶりにメキシコの選手もかけよって肩をたたいて励ますほど。
この後のインタビューで話したのがこの言葉だ。
久保建英選手。REAL CLUBDEPORTIVO MALLORCA websiteより
「今まで生きてきた中で一番幸せ」で日本中が沸いたのが1992年バルセロナオリンピックで競泳女子200m平泳ぎで金メダルを獲得した岩﨑恭子さんのことば。
勝利と敗北、結果は逆だけれど、敗者のことばにも胸打たれる。
がんばり切ったのだけれど負けてしまった負けっぷりの美しさというのも、スポーツの魅力だったことを思い出させてくれた。
うっせぇわ
歌手Adoがネット上で公開した楽曲。
作詞・作曲syudou(シュドウ)。
Adoは顔を出さず、ミュージックビデオはイラスト動画が採用されている。
コロナ禍で子どもたちは、登下校もマスク、合唱の時もマスク、給食は黙食でもう気分は「うっせぇわ」。
子どもたちの間で流行し、親も「きたないことば」だと非難しながらも口ずさみ、テンポよしノリよしで気分を晴らしたのだ。
ネット中傷
ネットへの書き込みが荒れに荒れた。
SNSではアスリートへの誹謗中傷、タレントへのバッシング、そして最大の話題といってよいだろう、秋篠宮家長女眞子さんと小室さんの結婚にかんしてはプロ・アマチュア入り乱れてのコメント合戦が繰り広げられた。
小室さんにかんするヤフーニュースのコメント欄は、投稿数が多過ぎて、また個人攻撃・誹謗中傷も多くあったことから、ヤフーが人工知能(AI)を使って選別するという対策を取り、表示されなくなったりもした。
ステイホームが続き、5月には飲食店で酒類提供禁止となる”コロナ禁酒令”が発令され、居酒屋談義が遮断され、不安不満を人に聞いてもらってうさをはらす機会が失われたことでネットに向かったこともあるかもしれない。
誰もが自由に意見、感想、批評、誹謗中傷を表明できることによって、特に著名人は自由な発言ができにくくなってしまっている。
推し
宇佐美りん作『推し、燃ゆ』(河出書房新社)から一般に広まった。
推しというのは残酷なシステムだ。
とにかく身銭をきらないと始まらない。
ジャケット写真が違う同じCDを何枚も買い、グッズを買い、SNSで”広報”し、ライブに通い詰める。
それは好きだから買う、見に行くという”甘ちゃんな”ファンとは別の投資に近い。しかし推しは育ったとしても見返りはない。ただ、幻想があるのみだ。
リアル二刀流
2021年の大リーグエンゼルスの大谷翔平選手の二刀流は「リアル」がつく。
投手で出場した試合にバッターとしても登録されるのだ。しかも、1,2,3番などで。
エンゼルスの所属するア・リーグはDH制を採用している。
それをあえて解除して投打で出場するのがすごいのだ。
大谷選手は今年アメリカン・リーグのMVPを受賞。それだけではない。
◆ア・リーグ野手部門最優秀選手(ベースボール・ダイジェスト誌)
◆年間最優秀選手(ベースボール・アメリカ紙)
◆コミッショナー特別表彰
◆年間最優秀選手(スポーティング・ニューズ紙)
◆年間最優秀選手(米大リーグ選手会)
◆リーグ最優秀野手(米大リーグ選手会)
◆シルバースラッガー賞(米大リーグ)
◆オールMLBチーム・ファーストチーム=DH(米大リーグ)
◆オールMLBチーム・セカンドチーム=先発投手(米大リーグ)
◆ア・リーグ最優秀指名打者(DH)賞(米大リーグ)
の11冠(12月1日現在)と度肝を抜く。
野球の神様、元祖二刀流のベーブ・ルースの「2桁本塁打&2桁勝利」を103年ぶりに塗り替えることはかなわなかったが、大谷選手の「二刀流」は大リーグで不動のものとなった。
ビッグボス
2021年11月、北海道日本ハムファイターズの新監督に新庄剛志(つよし)さんが就任した。
新庄さんは就任記者会見に派手な真っ赤なスーツで登場し「優勝なんか一切目指しません」と宣言したかと思うと続いて「一日一日地味な練習を積み重ねて、9月あたりに優勝争いをしていたら、さあ、目指そう、というチームにしたい。」と意外と堅実な考え方を披露した。
「監督ではなくビッグ・ボスといって」ともリクエストし、以降浸透し始めた。
「顔を変えずにチームを変えたい」の名言も飛び出し、この方のことばの魅力と行動力に新生北海道日本ハムファイターズの期待が高まる。
写真:北海道日本ハムファイターズ ウェブサイトより
宇宙旅行元年
2001年宇宙の旅から遅れて20年の今年、民間の宇宙旅行会社による一般人の宇宙旅行が実現した。
2021年7月11日、アメリカの民間会社ヴァージン・ギャラクティックの宇宙船がパイロット2人と民間人4人の宇宙飛行に成功した。
高度80kmまで上がっていって、数分間滞在して、Uターンして地球に戻るコース。
続いて7月20日にはアメリカのアマゾンの創業者ジェフ・ベゾスが設立した民間会社ブルーオリジンの宇宙船が、ベゾスさんを含む4人民間人だけの飛行に成功。
こちらもUターンコース。
そして9月にはアメリカのテスラの創業者イ―ロン・マスクが設立した民間会社スペースXの宇宙船「クルードラゴン」が民間人の旅行者4人を乗せて、今度は3日間の飛行に成功。地球の周りを回って3日後に帰ってくるコース。
10月には2回目となるベゾスさんのブルーオリジン社が飛行に成功、この宇宙船に、人気SFシリーズ「スタートレック」でカーク船長を演じたウィリアム・シャトナーさんが搭乗した。
シャトナーさんは90歳で宇宙飛行最高齢記録。
約3分間無重力を体験した。
12月8日には前澤友作さんがスペースアドベンチャーズ社が打ち上げる「ソユーズ」で国際宇宙ステーションに向かう。
写真:Blue Origin Websiteより。飛行に成功したクルー。左から2番目がシャトナーさん