パレスチナ問題を理解するための旧約聖書 ①概観

パレスチナ問題を考える時、ユダヤ人の行動の根拠となっているのがその歴史であることがわかります。

パレスチナは古代エジプトが繁栄していた頃にはエジプトの範囲でした。
その後も周辺の強国が勢力を拡げては他の強国に滅ぼされるというように入れ替わり立ち替わり支配勢力が変遷しました。


そこに暮らす住民は必然的に支配国に影響されることになります。

ユダヤ人には、強国の支配下にありながら、神と契約を結ぶことで困難を乗り越えてきた歴史があります。

それはどのようなものだったのか。
ユダヤ人がまだ”エジプト人ではない人”の集まりでしかなかった頃からの歴史が書かれているのが旧約聖書です。

近現代のユダヤ人が根拠としている歴史を旧約聖書からみます。

4回のシリーズでまとめます。
第1回目は旧約聖書の概観です。

旧約聖書の概要

旧約聖書はユダヤ民族が起こる前の紀元前15世紀ころから紀元後1世紀頃までの出来事が書かれたユダヤ民族の歴史書です。

紀元前5世紀頃から編集が始められ完結まで500年かかっています。

誰が書いたの?

旧約聖書全体は500年かかって出来上がってきたものですが、まず最初の核となる部分を書いたのは、ユダヤ人でペルシャの高級官僚だったエズラです。
パレスチナは大国に支配される時代がありますが、ペルシャに支配された時代に成立しました。
この時、エズラは古来ユダヤ民族が作成してきた言い伝えや決まりごと等さまざまな文書を編集し、モーセ五書といわれる核となる律法を成立させたのです。

どんな内容?

ユダヤ人・ユダヤ教が起こる前からのこと、ユダヤ人・ユダヤ教が起こった時のこと、(古代)イスラエル王国のことなど千数百年以上にわたるユダヤ民族の歴史物語が収められています。

最も古い時代のお話に「アダムとイブ」や「バベルの塔」「ノアの箱舟」があります。
これらは全人類共通で神話の世界の話とされています。

次の時代の話から、ユダヤ民族の起源についての物語になっています。

ユダヤ民族は自然に存在していたのではありません。
ある出来事を経験することで神とつながり、その時からユダヤ民族が成立しました。
やがて王国を建国し、滅亡します。

この歴史絵巻が旧約聖書に書かれているのです。

旧約聖書では、時代ごとに主人公がいます。
神に選ばれた一人にスポットライトをあてて、物語が展開していきます。
現代につながるトピックと旧約聖書の関係は次の表のとおりです。

 

シリーズ回 メインプレーヤー 特長 現代につながるトピック
BC1500 アブラハム 大祖先。 「約束の地」の根拠。
ヤコブ アブラハムの孫、12人の息子あり。 「イスラエル」の名の起こり。
ヨセフ ヤコブの息子12人のうちの一人。 イスラエル一家を繁栄させた。
ヨセフの死後、エジプト王パロの支配になりイスラエル人は奴隷になる。なんと400年間!
BC1230 モーセ イスラエル民族のリーダー イスラエル民族、ユダヤ教の始まり。
ヨシュア モーセの後継者。 カナン(現在のパレスチナ)に侵攻して定住。その土地を12部族で分配した。
BC1004 ダビデ王 イスラエル王国の2代目王。勇者。 エルサレムを首都にした。
ソロモン王 イスラエル王国の3代目王。智恵者。 エルサレムに神殿と宮殿を建設。
BC931 イスラエル王国、南「ユダ王国」北「イスラエル王国」に分裂
支配国 状況 現代につながるトピック
BC722 アッシリア 北「イスラエル王国」を滅ぼす。
BC587 バビロニア 南「ユダ王国」を滅ぼす。 「ディアスポラのユダヤ人」の最初。
BC538 ペルシア ユダヤに寛大。 「旧約聖書」編纂開始。
BC333 ギリシア アレクサンダーの征服によりペルシャ滅ぶ。 民族の移動を奨励。
BC200 ローマ ユダヤ人はヘロデ王のもとで統治される。 第2神殿をリメイク。
キリスト教の成立。ユダヤ教徒、キリストを処刑。
AD66 ユダヤ敗北。ユダヤ王国は消滅し、ユダヤ人パレスチナから追放され、各地へ散らばっていく。

旧約聖書の内容は本当なの?

これらの内容は考古学的に証明されているかというと必ずしもそうではありません。

エジプトのピラミッドも紀元前25世紀頃に造られたとされていますが、考古学的に定説となっていることもあれば、まだまだ未知のことも多いという状況をイメージするとよいかもしれません。

ギザのピラミッドとスフィンクス

聖書の出来事の一つであるノアの箱舟についても、「箱舟が見つかった」といったニュースが時々報じられます。
ノアの箱舟

旧約聖書の歴史物語は、現代のユダヤ人に脈々と刻み込まれ行動の基礎となっているのです。

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