イチロー選手のギフト
イチロー選手の日本語力
アメリカ大リーグ・マリナーズのイチロー外野手が引退しました。
日米通算28年間のプロ野球生活ということです。
このうち日本でプレーしたのが1992年から2000年の9年間、そしてアメリカでプレーしたのが2001年~2019年の19年間、大リーグでの選手生活の方が10年も長かったとは改めて驚きです。
年齢としては45歳なので、26歳から外国暮らしということになります。
20代でアメリカに渡り19年も生活していたらイチローはアメリカ人っぽくなったのかしらとも思いますが、3月21日の引退表明会見ではまったく逆であることが伝わってきました。
時間的にも1時間23分と長かったですが、そこで話された言葉は近年の日本でなかなか聞けないほど密度が高いものでした。
アメリカで一人戦う毎日に研ぎ澄まされたのは野球の技術だけでなく、徹底して考え抜くための日本語力もだったようです。
これも弓子夫人のおにぎり2800個のおかげといえるのかもしれません。
でもやはり、日本語ながらもアメリカっぽいなと感じた言葉が「ギフト」です。
ギフト
イチロー選手は昨年5月にマリナーズのスペシャルアシスタントアドバイザー(会長付特別補佐)になります。
「練習はする、試合には帯同する、だけど試合には出ない」というなんとも中途半端な役割です。
そして今回、プラス「2019年の3月にメジャー契約となり東京ドームでのアスレチックス戦2戦に出場する」という条項があったことが判明しました。
アメリカから羽田に到着した15日の記者会見でこの東京ドームでの2戦について
「これはもう、大変なギフト。1週間後はもう、振り返る時間になるわけだから、一瞬一瞬を刻み込みたいと思っている」と話しました。
21日の引退記者会見でも「大きなギフト」と表現しています。
昨年の5月時点でマリナーズ側にしたら、イチローは選手としては無理。でも日本の興行を見据えるとそこでの役割は十分ある。年棒を差し引いてもウィンウィン。
という環境でした。
いい方を変えれば”粋な計らい”ともいえますが、一方で来日記者会見では「キャンプの結果を踏まえて、ここ(日本)にいることは本来あり得ないのではと思う。やっぱり、日本人であることですでに勝ち組なんだな」と話し自虐的にとらえたりもしています。
どちらも本当なのでしょう。
スポーツ選手の引退は「体力の限界!」とサッと引くのがかっこよいように思いますが、イチロー選手は練習しかしない時期を「ひょっとしたら誰もできないかもしれない。ささやかな誇りを生んだ日々だったですね。どの記録よりも自分の中では、ほんの少しだけ誇りを持てたと思います」と話しました。
中ぶらりんの会長付特別補佐の時間が10年連続200安打よりも誇りだったというのです。
ほんと? と思います。
そう思おうとして過ごしたのではないか、そう思わなければ過ごせなかったのではないか、と勝手に思いがめぐります。
世界の最高峰で孤高に戦っているイチロー選手のなにがわかるわけではありませんが、ものごとをポジティブにとらえて行動する姿勢がギフトという言葉に象徴されていたように思い「あ、イチロー、アメリカ人っぽいな」と感じたのでした。
イチロー選手お疲れ様で1曲。
ワーグナー作曲「タンホイザー序曲」です。
ワーグナーはオペラの作曲家で壮大なオーケストラでとにかく長いのが特徴です。
「タンホイザー」は素朴な娘が夢中なチャラチャラ身勝手男が主人公のストーリーで、その身勝手男は作者ワーグナーがモデルというなんとも芸能ネタのようなオペラです。
この曲とイチロー選手の輝かしい業績とはまったく関連性はありませんが、細やかかつ重厚なメロディーはかっこよく、静謐と動、鋼の精神力に合っているように感じ、紹介します。